ビッグマウンテン現地レポート*
20世紀最大のインディアン強制移住問題と呼ばれ、世界中から注目された、このビッグマウンテンのディネ(ナバホ)とホピの強制移住政策。
それは永年にわたるホピとナバホの土地争いを解決するため連邦政府がその土地分割法を定めたことで起きた問題である、と一般には言われてきました。
ですが、歴史的な事実とその中に見え隠れする真実が語るところによると、その背景にはこの辺り一帯に埋蔵される膨大な石炭、石油、天然ガス、ウラン、、、そして現代ではますます価値が高まってきた地下水の利権を狙いとする合衆国政府と多国籍企業による政策が大きく影響しているのだ、と伝統派ディネ、伝統派ホピ、そして環境主義者や人権学者など多くの人々がそう指摘するのです。
かつては伝統派のディネと共に伝統派ホピの長老デビッド・マニャンギ、トーマス・バンヤッケなど、部族を超えてその隠された真実を見抜いた人々が手を携えてこの問題に対して闘ってきました。ですが、今ではその多くは肉体を離れ、また残る現地の伝統派ディネの長老たちも年老い、少数となってきています。
先頃も、その抵抗運動の精神的支柱として永年闘ってきたディネの女性長老のポウリーン・ホワイトシンガーや他の長老たちも相次ぎ亡くなり、現地では大きな悲しみが覆っていたばかりです。
逆に言えば、だからこそ、その隙をついて一気にこういった行動を取ってきたとも思えます。
かつてはJoint Use Area(共同使用地)としてホピとディネ(ナバホ)の人々が永年にわたり暮らしてきたところ。作物を交換しあい、儀式を行き来し、時に通婚しあって互いに平和に生活していたと、ディネ(ナバホ)の長老だけではなく、ホピのトーマス・バンヤッケなども語っていました。もちろん時に諍いもあったりもしたでしょう。でも、そんな部族間の微妙な心理を利用する形で合衆国政府が介入し、それを口実に無理矢理母なる大地に有刺鉄線を張り分割してしまったのです。
そして1974年以降、制定された土地分割法の下、わずかな保証金で一万人以上のディネ(ナバホ)と数百人のホピが近隣の街に移住させられて行きました。しかし今もまだ強制移住に同意せず数家族のディネ(ナバホ)の長老たちが伝統的な生活を営んでいるのです。彼らは生まれ育った場所であるに関わらず、不法占拠者として扱われ、電気や水道も引く事も禁止され、また痛んだ家屋を補修することも違法とされ、ましてや伝統生活の基盤である羊やヤギの家畜の数ですら統制されてもいるのです。彼らは羊やヤギを食べるために飼っているのではなく、その毛を刈り伝統的な織物(ナバホ・ラグ)を織って数少ない現金収入の手段としています。だからその羊やヤギは自然と数は増えていきます。その増えた数を強制的に押収するというイヤガラセを定期的に受けているのです。またその押収された家畜を取り戻すのには一頭あたり数百ドルのお金も払わなければいけません。もちろん抵抗する者を逮捕、拘留という手段も日常的に取られています。
その執行者は合衆国政府下に属する部族政府のホピ部族警察であるため、必然的にその憎しみや感情がホピ部族に向けられ、部族間の対立を否が応でも高めます。
かつて1800年代、西部劇の頃のようにインディアン対白人騎兵隊と言った判り易い図式ではなく、(それでも当時ですら敵対するインディアン部族同士を使い、争わせてもいましたが)いまも地元部族同士や利益を反する同族同士を対立させ、それにより物事の本質から大きく目をそらせる手段が取られている、と感じます。
これはインディアンに限らず、ここ日本でも原発予定地の上関等を見るまでもなく問題を持ち込まれた地元の人間同士を敵対反目させて、全体の力を弱める権力側の常套手段であると言えるでしょう。
このレポートを書いたバヒ自身も、自分はディネであるに関わらず若い頃より多くの叡智を当時ホピの伝統派の長老より学んだのだ、と聞きました。
しかしながら、今、現実においては、そのようなホピ伝統派はすっかり少なくなってしまったように思えます。もちろんディネや、また他の部族においても伝統的な暮らしの中で知恵を伝える人々は増々少なくなっていると聞いています。それは先住民に限った事ではなく、地球より経済をマネーを優先させる価値観の中、世界中で起きる同様の事態の中、全ての地域で地球的な危機に直面していると言えるでしょう。
その事に比例するかのように、大地震、旱魃、大洪水、巨大なハリケーンや台風、、そして原発やオイルの絡んだ大規模な環境破壊、ますます悪化する地域紛争は第三次世界大戦前夜の様相を顕すかのようです。
それこそが、古えのホピが予言した「大いなる浄化の時」。その時代を正に迎えている!と言えるでしょう。
ビッグマウンテンを中心とするフォー・コーナーズと呼ばれる一帯は、世界のバランスを司る母なる大地にとって非常に重要な場所である、とかつてホピやディネの長老たちは言っていました。
この地を守る人々、それが本当のホピやディネの人々の役割とされます。
その人々を追い出し、そこに眠る大量の地下資源や水を奪う。
その地下に眠るウランや石炭、膨大な地下水こそ、この母なる地球を健全に保つかけがえのない内臓である。
だからこそビッグマウンテンを守り、その聖なる場所を聖なる場所として存続させることが大事なのだ。
ビッグマウンテンを守ることは、世界を守ることなのだ。
そう何度も、ここにいたグランマたちに聞いたことを思い出します。
いまも続く先住民強制移住と聖なる大地の破壊に対して、その背景に想いを馳せてみてください。
その21世紀の今も続くこの過酷な現実に対し、ぜひとも多くの目を注いでください。
そして、一人でも多くの声を届けていただきたいと切に願います。
最新のレポート
現地からの最新レポートを掲載しています。(2014年11月更新 )
- 2014年10月24日
合衆国とその植民地的なインディアンの部族機関がビックマウンテン地域から攻撃的なキャンペーンを撤退させ、ディネの、彼らにとってなくてはならない家畜である、没収された羊とヤギを解放するよう要求する必要がある。
- 2013年11月15日
北南米先住民長老会議の声明
COUNCIL FUKUSHIMA STATEMENT OCT 2013 - 2011年5月10日
ビッグマウンテンに、つながる全ての親族に - 2009年2月23日
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昨年の11月に日本のファッションマガジンFree & Easyがビッグマウンテンの伝統派長老 ポーリーン・ホワイトシンガーにインタビューしたものの全容掲載 - 2008年11月1日
「コロンブッシュ発見!」 ビッグマウンテンのスピリットの名において、アルカトラズ島にて - 2008年3月3日
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ビッグマウンテン・レジスタンス30周年記念 の集いは成功のもとに終わった! - 2007年9月5日
2007年夏ビッグマウンテン・レポート - 2007年3月26日
ビッグマウンテン最新情報 - 2006年11月15日
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「主権は否定され、世界の安定が脅かされている」 =聖なる石板の守りびと、伝統派ホピの長老の言葉 - 2006年3月1日
ナバホタイムス(2006/1/26)の記事
ビッグマウンテン問題とは?
アメリカ合衆国、アリゾナ州、ユタ州、コロラド州、ニューメキシコ州にまたがるフォーコーナーズ地域に、ディネ(英語名をナバホ)と呼ばれる人々が住んでいます。ディネは、コロンブス以前からこの大陸に住むアメリカ先住民で、人口16万5千人、面 積6万平方キロのアメリカ最大のインディアン居留地を構成しています...
ビッグマウンテン長老の叫び
いまビッグマウンテンは混乱している…。強制移住への抵抗が始まって以来、いろいろな考え方がここに持ち込まれてきた。政府はここを出ていけと言い、住民は困惑し、そしてさまざまな支援を求めた結果 、さまざまなアイデアがさまざまな形でやってきたというわけさ。いまや私はこの長い抵抗のなかで孤独を感じている…
その他
The Long Walk for Big Mountain 報告集
2000年1月1日~2月2日、飛騨高山を出発し、 アリゾナ州ビッグマウンテンまで歩いた皆さまからのレポートです。
The Long Walk for BIG MOUNTAIN」の記録映画がDVDになりました!
The Long Walk for BIG MOUNTAINの記録映画がDVDになりました。
リンク
北山耕平さんのブログ、NATIVE HEARTにナバホ国と ウラニウムについての情報が掲載されています。
バヒ・キャダニー氏のブログ
"Longest Walk 1978: Security Camp Stories"
現地からの最新レポートを掲載しています。(英語)