(「人間家族」2000年10月号掲載) |
今回は、デッド・ライン・Tシャツの売上金の寄付報告と、HPL 地域のディネの大半がサインを余儀無くされたアコモデーション・アグリーメントとはどういうものか、なぜ問題なのか、またデッド・ラインから今日に至るまでの現地の状況などを簡単に報告させていただきます。またこの場を借り、現地ビッグマウンテンのディネに代わって、「セイブ・ブラック・メサ・ウォーク」に参加してくれたたくさんの日本の皆さんの心に、感謝の念を伝えたいと思います。日本からのたくさんのご支援、ありがとうございました。今後も引き続きサポートをよろしくお願いします。 さて、デッド・ライン・Tシャツヘのたくさんの方々のご協力ありがとうございました。日本での売上金総額(232,OOO円)を強制移住に抵抗するノン・サイナー(アコモデーション・アグリーメントヘのサインを拒否して強制移住に抵抗する者)に寄附いたしましたので、報告します。 ロバータ・ブラック・ゴート ポ一リン・ホワイトシンガー&ボー二一・ホワイトシンガー キャサリン・スミス&ジュリアン・スミス サミュエル・K・ウィルソン グレナ・ビゲイ アイダ・メエ・クリントン セラ・ビゲイ&ウィリアム・ビゲイ トム・バドニ&バー二一・カスコリ キー・ジー&アリス・ビゲイ キー&ダリー・ベナーリ ジョン・ベナーリ ルイーズ・ベナーリ レオナルド・ベナーリ ジョアラ・アシキ ルー・アンキ ルビー・バイキャディー&コリーン・バイキャディー 以上 23 名を今回の寄附の対象とさせていただきました。 ところで、このリストを割り出すのに大変苦労したことを、この場で報告させていただきます。ノンサイナーの数は、マスコミによると 7〜12 名。(20 名と伝える報道もあります。)しかし、実際の数は未知数で、今回寄附の対象となった他にも、ノンサイナーは存在します。 このリストを作成するに当たっては、ナバホ・ホピ・インディアン移住対策委員会の資料、ビッグマウンテン・リーガル・オフィスの資料、および現地の住人の意見などを参考にしました。 とても奇妙なことですが、マスコミではノンサイナーと伝えられているものの、地元の住人にはサイナーとして知られている者がいることも発見しまレた。 誰が寄付の対象となるノンサイナーであるかを規定することが、大変困難な作業であったことは既に述べました。というのも、アコモデーション・アグリーメント(以下 A・A)の最大の問題点の一つがここにあるからです。つまり、そもそも誰がA・A のサインの対象となるかという問題です。実際 A・A の対象となっている人間は、HPL 地域に住んでいる人間の半分にも満たないのが現実です。言い換えれば、HPL 地域に住むほんの一握りの人間が A・A の対象となっているにすぎず(つまり今後も HPL 地域に条件付きで住むことができる。)、その他の者は、有無をいわさず強制移住の対象となることになります。たとえば実際に HPL 地域に住んでいても、過去 20 年間のうちに家族の誰かが移住の利益を受け取っていると、A・A の対象から外されます。その中には、1974 年強制移住法が制定されて以来、いったん移住はしたものの、移住先の町の生活に適応できなかったり、借金などで政府に配給された家を失った者、また単に故郷に再び住みたくて帰還した者など、様々な理由で HPL 地域に戻って来て住みついた者も含まれます。また家族の一員が移住の利益を受け取っていても、独自の強い意志で祖先からの土地に住み続けている者もいますが、そういった者たちも A・A の対象にはなりません。 また、世帯主が死んだ際、A・A にサインする資格が譲渡されなかった場合、その家族は A・A の対象から外されることになります。拡大家族(親戚の親戚のまた親戚でもディネは家族同様あたたく迎える。)の一員として HPL 地域に住んでいても、A・A の元ではサインの対象として考慮されません。また、これはインディアン特有の考え方でもありますが、一切名前を出さずに匿名でいることで、政府による数々の政策から逃れられると信じている者も数多く存在します。 |
また、A・Aのサインの対象にもならない若い世代が数多く存在するのはいうまでもありません。例えばウォークのため来日してくれた、日本とも深い縁のあるティム・ソー氏は、そのいい例です。彼は
A・A のサインの対象からはまったく無視されています。9 人兄弟姉妹のうち、対象となったのは長男、次男の 2 人にすぎません。しかし、ティムの場合、祖母から放牧権を受げ継いでおり、今後、A・A
にサインした祖母の意思をそのまま受け継ぐかどうか、ナバホ・ホピ・インディアン移住対策委員会に、大きな圧力をかげられています。(ちなみに、今回デッド・ライン
T シャツのデザインを担当してくれたノンサイナーであるサミュェル・K・ウィルソン氏は、ティムの叔父さんにあたります。) |
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サミュエル・K・ウィルソン(羊飼い) モスキート・スプリングにて |
こういった若い世代は、あまりにも数が多いので、今回は寄付の対象からは外しました、しかし、彼らの存在を決して忘れてはならないと思います。彼らの中には、祖先代々受け継いだ土地で、祖先の伝統的知恵を生かし、なおかつ現代のアメリカ生活にも通じるエコロジカルなオルターナティブ・]ライフスタイルを構築しようという意欲に燃えた者もいます。 このように、いちがいにノンサイナーとサイナーとを二者択一で語ることができないことを承知していただきたいと思います。ノンサイナーが四六時中ホピ部族政府による強制移住の脅威にさらされていることも事実です。しかし、A・A にサインした多くの者が、当局の脅迫、威嚇、詐欺的手段によってサインを余儀無くされたことも、見逃してはならないと思います、彼らは今後一生、市民権を剥奪された差別的な A・A により、生活の細部までを規制されることになるのです。祖先から受け継いだ土地を守り伝統的な生活を続けていきたいというディネの思いはどちらも同じです。A・A はそんな HPL のディネに大きな分断をもたらしました。 「緒局、A・A
にサインした者もしない者も、私たちにはまったく希望がないよ。」 |
次に、HPL
地域に住むディネの最大の関心事ともいわれる A・A の問題に、羊の頭数制限問題があります。2000 年 2 月 1 日以前の HPL
地域の土地管理は、BIA(合衆国インディアン局)の管轄にあり、BIA の管轄の元での HPL 地域の年間羊頭数(SHEEP UNIT
YEAR LONG)は、12,547 頭とされていました。ところが 2 月 1 日以降、 HPL 地域の管轄はホピ部族政府に移り、新しい管轄の元での
HPL 地域の年間羊頭数は、2,800 頭と大幅に減らされてしまいました。四分の一以上の削減です。一世帯当たりでいうと、羊15 〜
20 頭の割り当てになり、これでは家族を養うなどとうてい無理な話です。これは、羊で生計を立ててきたディネの伝統的な生活をまったく無視した政策といわざるをえません。 |
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