(「人間家族」2000年10月号掲載)

ここで彼らの暮らしぶりを少し紹介しましょう。
一年間を通じて放牧する羊が彼らの生業です。彼らには伝統的に独自の放牧様式があり、季節ごとに放牧地を移動する(夏のキャンブ、冬のキャンプ)ことで、放牧地の牧草を保護し土地の荒廃を防いでいました。これは現在の BIA の放牧地管理とはまったく違った方法です。(放牧に関する問題についてはまた別の機会に説明したいと思います。)
そして春から秋にかけての畑仕事。特に白、黄色、青、赤など様々な種類のとうもろこしは、それぞれの方法で保存され・年間を通して一家の主食となります。(余ったとうもろこしは、イエロー・コーン・ミールやブルー・コーン・ミールに加工して主にフリーマーケットなどで売ります。とうもろこしを粉に挽く作業は、冬の伝統的な夜なべ仕事。)
羊肉は余すところなく料理され、その皮も丹念になめされてシーブ・スキンに仕上げられます。また羊の毛は糸となり、やがてラグに織り上げられ、一家を支える現金収入に結び付きます。(昔は、ロシアがナバホの羊毛を買ったそうですが、今は買い手が誰もいないと聞きます。際立った織り手のいない家では、買い手のいない羊毛が貯蔵庫に積み上げられています。)また、羊そのものを売ることで、臨時の現金収入を得ることができます。


今でも近隣のナバホはいうまでもなく遠くからも、またホピも、この地域の羊を買いにやって来ます。彼らはそうすることで強制移住に直面している彼らをサポートしているのです。この地域の羊は、スーパーで売っている羊肉と比べて味がいいと評判です。やはり食べているものが違うのでしょうか。ヘイ(街で売っている家畜のための乾燥した飼い葉。)で育った羊とは訳が違うのでしょう。
「羊はわしたちににとって銀行のようなものじゃ」
(ロバータ・ブラック・ゴート)

ロバータ・ブラックゴート
ディネ・カレッジにて


「羊があってのディネの暮らし。十分な数の羊が飼えなくて、どうやって私たちの暮らしが守られるというのか。」
(アイダ・メイ・クリントン、2000年1月25日、ハード・ロック・チャピターでの発言。)


(左写真)
アイダ・メエ・クリントン
ハード・ロック・チャピター・ハウスにて




石炭の露天掘り

こうした伝統的なディネの生活を思うと、ホピ部族政府に土地の管轄が移ってから大幅に削減された羊の頭数制限が、いかに彼らの暮らしを脅かすごとになるか、容易に想像がつくことと思います。

ビッグマウンテン地域、および HPL 地域を訪れたことがある方はご存知と思いますが、この一帯はアメリカ合衆国の中でも最も貧しい地域のひとつです。(ナバホ居留地全体での失業率は 45%、これはサウスダコタ州ローズバッド・ラコタ居留地の 80% という数字に比べるとまだましな数字ともいえるが、ビッグマウンテンはじめ HPL 地域が国家的犠牲地域であり、未来への希望がまったく無いところであることを考えると、ほぼ同じ、もしくはより高い失業率になるであろうと思われる。)

どこのインディアン居留地でも状況はほば同じですが、賃金労働はほとんどありません。居留地にある仕事といえば、BIA または部族政府の仕事(政府各機関、教育、医療、保健が主。)、ナバホに関していえばその他に鉱山会社の仕事があります。しかし、それらも限られているので、現金収入を得るためには、結局居留地の外に出るしか道はありません。どの家族でも、家族の誰かが鉄道や道路工事の仕事に出稼ぎに出て、生計を助けています。また、子供からお年寄りまで、手っ取り早く現金を得るため、ビーズワークなどのアクセサリー作り、ポーチ、モカシン作リに余念がありません。もちろん、腕のいい織り手は、ナバホの古くからの伝続でもある織物の仕事に従事します。

ところがそういった人たちが本当に極貧かというと、実はそうではありません。少なくとも私はそう感じました。確かに彼らには現金はありませんが、彼らの生活は羊を中心とした豊かな経済に支えられています。彼らの主な食料は、いうまでもなく羊、そして畑でとれるとうもろこしやスクワッシュ、すいかなどの野菜、果物類。また秋になると一面の松林から落ちるピニオン・ナッツ(これは現金収入ともなります。)など。広大な放牧地からは、ワイルド・ティー(別名ナバホ・ティー)、ワイルド・オニオンやワイルド・キャロットなどが季節ごとにとれます。そして半砂漠のあちらこちらにある水場、豊富な木材燃料。お金さえ出せば何でも手に入る都会の暮らしとはまったく異なり、水を汲むにしても、薪を集めるにしてもたくさんの労働力が必要です。しかし、彼らの暮らしには、お金という経済価値に頼らない真のサバイバルが、ありとあらゆるところに生かされています。伝続的な暮らしのサイクルを守っていけば、ほんの少しの現金で住む暮らしがここにはまだ残されています。長年の闘争を闘い抜いてこれたのも、ひとえに羊を中心とする伝続的な暮らしをかたくなに守ってきた賜物といえるでしょう。真の強さはやはり暮らしの中から生まれてくるものなのです。


【写真上】
下水を汲み上げて石炭を運ぶパイプラインがこの地下を通っていることを示す看板。


しかし、これらの生活資源も、ピーボディー石炭会社による石炭輸送のための地下水の大量汲み上げ(年間 1 兆 4 億ガロン:5 兆 3 億リットル)、また石炭採掘にともなう化学薬品投入による水の汚染などで・年々脅かされています。

【写真右】
ピーボティ・コール・カンパニー(石炭会社)の看板


HPL 地域のディネに対する差別的待遇は他にもあります。
ホピの放牧権については 5 年ごとの更新であるのに対して、HPL 地域のディネは 1 年ごとの更新が義務付けられているのもその例です。また HPL 地域のディネに関しては放牧権を失うことが容易であるのに対し、新たに放牧権を取得する道はほぼ閉ざされていることも差別の一つに挙げられるでしょう。例えば家畜が死ぬなどして家畜が全減した場合・HPL 地域のディネは自動的に放牧権を失うことになります。しかし、その者が新しく家畜を手に入れ放牧権を得ようとすると、次の法律でほぼ放牧権を得る道が閉ざされているのが現実です。ホピ部族条例 43 には、新たに放牧権を申請するには 7 段階の優先順位が定められています。その順位は以下の通り。
1. ホピで HPL 地域に移住した者。
2. 現在 HPL に住んでいるホピ。
3. 他の放牧地域から家畜を HPL に移したホピ。
4. 将来放牧地域を HPL に移す予定のホピ。
5. 現在家畜を所有するホピ。
6. 将来家畜を所有する予定のホピ。
7. ディネ。


また A・A は生活の細部までを規制します。
暮らしに欠かせない薪の収集には、90 日ごとの詐可更新が必要。儀式に欠かせない植物の収集は法律で禁止されています。先程ワイルド・ティーなどの野生の食料の誘をしましたが、実はそういったものを収集することも法律で禁止されているのです。したがって収集しているところをホピのレンジャーに見付かれば、即刻逮捕されることになります。鷲の羽根の収集に関してもしかり。

もちろん、伝統的な暮らしに欠かせない儀式(ディネの間には今でも伝続的な儀式が根強く残っている。ビューティー・ウェイ、ブレッシング・ウェイ、エナミー・ウェイ、ファイアー・ダンス、イェイビチェイなど、その種類も様々でとても興味深い。儀式はどれも主にヒーリングが目的で行われる。)もホピ部族政府に許可を申請しなければなりません。無許可で行うと違法行為となり、儀式の最中に警察がやってきて、儀式が冒涜されることもしばしばあります。

「私たちがセレモニーをやっている最中に、部族政府の役人が、2 人のホピ・レンジャーを連れて儀式を邪魔しにやってきました。彼らは銃を持っていました。私は、神聖な儀式にどうか銃を持ち込まないでほしいと頼みましたが、無視されました。彼らは私たちディネが大切にしている神を冒涜したのです。私たちはホピのセレモニーを邪魔したり決してしません。彼らの儀式にはとても尊敬を持って接しています。」
(セラ・ビゲイの発言。ナバホ・タイムズ、1997 年、2 月 6 日。)

私が直接目撃したのは、咋年、 HPL 地域でジョー・チェーシング・ホースによって行われたアンナ・メイ・キャンプのサンダンスです。昨年のアンナ・メイ・キャンプでのサンダンスは、4 年間サイクルの最後の年にあたるとても大切なものでした。ところが法律で定められた規定の日以前から許可を申請し続けたものの・結局ホピ部族政府はセレモニーの許可を与えませんでした。しかしそれにもかかわらず・サンダンスは行われました。当日、アンナ・メイ・キャンプヘ入る道路の入り口には何台ものホピ・レンジャーの車が常時配置し、ネイティブでないものを追い返し、行き来する者にいちいち身分証明証の照会を求めるなど、四六時中監視体制が張られていたのを覚えています。主催者であるルース・ベナーリには一日ごとに 500 ドルもの罰金が言い渡されました。(このサンダンスにはクロウ・ドッグも支援に駆けつけた。)

【写真右】
アンナ・メイ・キャンプの入口
セキュリティー・チェック
ここから先は、撮影禁止



A.A はこのように人々の生活の細部にわたって制約するというのに・ HPL 地域に住むディネの側から、その行政手続きや裁判手続き、警察機構に対して苦情を訴える道はまったく閉ざされています。また A・A には、15 年間のうちにホピの部族法に 3 回違反するとリース契約が自動的に取り消される、という条項(ホピ部族条例 46)も存在し、この条項は HPL のディネに大きな脅威を与えています。


また、しばしば現地のノン・サイナーの間で論議されるのは、契約で定められたリース金をナバホ部族政府がいつまで払い続けることができるかということです。定められた金額は、ある筋の情報では、年間 83,000 ドル。新聞では、リース金の支払いには、連邦政府が地下資源開発などを通して援助すると報道されていますが、どちらにしても現地の住人は部族政府をまったく信用していません。それでなくても慢性財政困難状態の部族政府の懐です。一見独立しているように思われる部族政府の懐を明かせば国家予算の 4 分の 3 が連邦政府からの助成金で成り立っているというのですから、どれほど部族政府が連邦政府に追随しているか明らかと思います。残念ですが、独立にはほど遠いのがインディアン・ネイションの現実です。部族政府は予算がないのを理由に、A・A にサインした者たちにあてがわれる住宅の工事も滞っています。開始されて 1 年半以上経過した今もほとんどの家が未完成のまま放置されています。

A.A. にサインした者にあてがわれる家、
現在も未完成のまま放置されている。
水道もないところであるにもかかわらず、
中にはバスタブやシャワーの設備がある。


「私たちは家賃を払ってここに住んでいるようなもの。だから家賃を払わなければ追い出されるの。」
(ジョアラ・アシキ談)

ジョン・ベナーリとジョアラ・アシキ
後方にいるのはジョンのガールフレンド

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