2009年2月19日更新
日本のファッションマガジンFree & Easyが ビッグマウンテンの伝統派長老 ポーリーン・ホワイトシンガーに インタビューしたものの全容です。
この時のポーリーンの写真がFree & Easy 2009 1月号 P216~P219に掲載されました。またP172にもバヒとビッグマウンテンの風景が強制移住問題と共に紹介されています。このインタビューの内容はバヒのブログから全文を訳したものです。ディネ(ナバホ)語しか喋れないポーリーンの言葉をバヒが英語に翻訳したものを日本語に訳しています。
●Longest Walk 1978: Security Camp Stories(バヒ・キャダニー氏のブログより)
http://sheepdognationrocks.blogspot.com/2008/12/ancient-ways-abandoned-to-fend-for.html
Early 21st Century: The Last Days of Traditional Indigenous Life (Was) at Big Mountain
21世紀初頭、ビッグマウンテンでの伝統的な先住民の暮らし
(写真Free & Easy)
*ポーリーン・ホワイトシンガー、インタビュー
Free & Easy :
伝統的な暮らしの中では、一日とはどんなものですか?
Pauline Whitesinger :
予定や計画は重要で、事前にたてるものです。しかしながら、私たちが 以前経験した混乱は予期せず訪れ、重要なことや目標に使うべきであっ た時間を奪ってしまいました。ここビッグマウンテンでは、私たちはア メリカの警察や中に脅かされながら生きています。残念なことに、今朝、私たち、そしてあなたもそれを目の当たりにしました。
その昔、朝、自宅を一歩出る時から一日が始まりました。その先に何が 待っているかをはっきり予測することはできませんでした。なぜなら 「つまずかされる」かもしれないからです。人の一日には、家族や地域 社会が必要で、そこに文化がありました。「つまずいて転んだ」時も、 周りの人がその体験を分かち合ったり、助けたりしてくれるのです。私がまだ若いとき、「NO」という言葉はあまり使ってはいけないと 諭されました。いつも人を支えられること、共感を持つこと、自分自身 もいつの日かその支援を必要とすることがあるから、という教えでした。
今日、道具を借りたり、衣類を繕ったり、何かを修理するために人に道具を借りたりすることがあります。このような時は、思いやりという人 間の能力を試すこと、自分の姿勢を表現することです。この試験をどの ようにこなすかによって、あなたの精神的なバランス、思いやりや謙虚さがためされます。つまりあなたの「ハート」が愛と繋がっているかど うかで決まるのです。もちろん、このようなことは昔はどの子どもにも 当然のこととして期待されたことです。たとえば、男の子ならば、いずれ畑を耕したり、家を建てる大工になったものです。私の父は多分このように育てられたのだと思います。彼はいつも人が家を建てるときには手伝ったり、地域の価値観を維持するためにあらゆる労を惜しみませんでした。
私は人生を定義することはできません。それは人の心にどれだけの器が あるかによって決まります。鍵は、信仰を実践することです。つらいと きには祈り、どんなにつらくてもその信仰を捨てないことです。現代人 の心は昔よりも弱くなっており、他者をおとしめたり、アルコール依存症などにおちいりやすいようです。現代生活は、子供達を私たちから遠 ざけ、子供達は「野蛮化」してしまいました。インディアン社会の家族 単位はなくなってしまいました。馬や羊に頼っていた時代は過去のもの となり、車が未来を示しています。
私の子供の頃は、自力で水を汲んで運びました。スウィート・ウォー ターと呼ばれる渓谷に水を取りに行っては、谷底から登って帰ったことを覚えています。薪を集めて運ぶのも手伝いました。引っ越しのとき は、挽き臼を運びました。当時の一日は、スーパーに行って炭酸飲料を買ってくるようなことはなかったのです。炭酸飲料のような危険な飲料やアメリカ製品について私たちはよく分かっていませんでした。
私の同世代が伝統的長老として生きる今の時代では、若者からの敬意を受けることはありません。彼らの心や頭に何が起きてしまったのでしょう? 白人社会も不安定になっています。8歳の子供が父親を銃 で殺したという話も聞きました。8歳といえば、責任ということ についてまだ学び始めたばかりの歳ではありませんか! とても楽しい年頃です! 私は鞭を使うような罰を通じて人生を学んだわけではあり ません。まだ小さい頃、何かについてすねたとき、母は「おまえの愚痴 を受け入れるわけにはいきませんよ、もう時間がきてしまいましたよ」 と言いました。父はもっと優しかったですよ。「よく聞きなさい」、と 言われたら自然に聞き分けがよくなったものです。私は虐待や軽蔑も知っていますし、愛と尊敬も知っています。私はずっと自分の人生を愛 と尊敬に基づいたものにしようとしてきました。
Free & Easy :
ディネの死後の世界の概念について教えて下さい。
Pauline Whitesinger :
私が生きている昔の生き方では、そのようなことについて語ることは禁 じられています。人生が幸福な時は、嘆く時ではないからです。今私た ちに与えられている瞬間はお互いの存在を楽しんでいる状態であり、それ以外の話をしてはならないのです。
Free & Easy :
「神話」という言葉は使いたくないのですが、ディネには人間の 創造に関する神話はありますか?
Pauline Whitesinger :
以前までは、ビッグマウンテンのコミュニティーには、人類の始まりの ときに創造された原初の核となる氏族の全ての子孫達がいました。ホワイトシェルウーマンが太平洋で暮らす直前にディネの民が創造されました。彼女は自分の体の四つの部分から4片の垢のかけら、油、ホコリをとり出したといいます。そして儀式と超自然的な力によって 4片の垢と油とホコリが人間の形になったのです。
昔、水の張った河床から足で水をくみ出し、最後には泥に覆われてし まった一族がいます。私の所属するターバーハ氏族は、この一族から分 かれてできた氏族です。ターバーハ氏族はその後、山岳地帯に定住する 際に二派に別れました。それが今日のターバーハ氏族のハルトソ・ディ ネ(草原の民)とシニーアハー(立木の民)となっています。
今日、このような氏族は人間によって変容させられ、そのためにバラン スが失われ、攻撃性が増しています。ホピの生き方も乱用されていま す。なぜなら、制服をきて銃をもったホピ達がやってきて、私たちがこ こに存在することにたいして「彼らの許可」が必要だと言うのです。 神々の偉大なる世界はもはや重視されることはなく、だからこそ私の儀 式小屋が違法だと決定され、彼らは私を攻撃するのです。この攻撃性の 根はどこからきているのでしょうか?
Free & Easy :
あなたの両親は伝統的な生き方について多くを教えてくれたの だと思います。その中で最も大切だと思うものを教えてもらえますか?
Pauline Whitesinger :
私がすべてその教えにそって間違いなく生きてきたかどうかですか? (笑) 私の父はメディスンマンで、母は薬草を扱う人でした。彼らが 今ここにいたら、ビッグマウンテンでの生活が古くからの教えにそった ものではないことに気付くでしょう。
父は亡くなる3日まえに、当時の私にはとても変に聞こえるビ ジョンや予測について話してくれました。父はヤギや馬や牛に恵まれた 今の暮らしは良い暮らしだ、しかしいつの日か「ホピが警察を持ち込 む」時代が来るだろうと言ったのです。
父は私たちに言いました。「全ての動物たちのしっぽをしっかりつか み、脚にしがみつき絶対に離すな!牢屋に送るだとか武器で脅されて も、木々の根っこをしっかりと掴んでいればいるほど、お前達は最後に勝つのだ!」
「恐れることはない、ここにお前達の母である偉大なる山がある。その 母のドレスの裾にしっかりと掴まっていなさい。おまえとおまえの親族 は最も偉大な民である。「水に近い民」の「山の草原の民」であるおま えの氏族が生命の霊的な法に乗っ取り、儀式のしきたりに従って生きる ことを見届けなさい」と。
Free & Easy :
「移住」を考えることはありますか?
Pauline Whitesinger :
私はそのつもりもないし、支度もしていません。そのような時が訪れる とすれば、彼らは私を縛り上げでもしないと動かすことはできません。 私が真剣に移住法について考えるとき、私はその真の目的について考え ます。それは大地から貴重な鉱物を取り出すと言うことです。青い空が なくなり、この地を巨大な機械がおおいつくす時のことを想像します。 その時、この開発を進める企業はどこか遠いところで利益の恩恵にあず かり、その影で先住民の暮らしは、ほんのわずかな、貧しくて、体が不 自由で病に蝕まれたインディアンだけとなってしまうのです。
Free & Easy :
アメリカ政府に、あなたの強い望みを伝えるとすれば、何を伝えますか?
Pauline Whitesinger :
アメリカ政府は、先住民・インディアンがグレート・スピリットが願う 生き方ができるように配慮したためしはありません。政府に対して母な る大地は神聖であると伝えた時も、誰も耳を貸そうとはしませんでし た。今、我々最後の伝統派が解き明かさなければならない予言だけが残 されています。ディネの言葉が亡くなるとき、社会のコミュニケーショ ンもなくなるだろう、と伝えられています。大陸の中心で大きな火事が 起こり、それが外へと広がるだろうと。五本指の種族(人間)は逃げま どうが、最終的には焼き尽くされるか溺れるだろう、というのです。
Free & Easy :
政府によって強制移住法が施行される前に、どれくらいの人がここに住んでいたのですか?
Pauline Whitesinger :
どれくらいかという数字はいえませんが、ディネの文化的生活はこの土 地一帯に広がっていました。大地の上をディネの文化がブランケットの ようにおおっていたのです。家畜や馬の群れ、トウモロコシ畑、種や薬 草を採取する人々、馬や馬車で旅する人、そして季節によって暮らす住居などです。しかし、これらの住居のほとんどは今空き家です。ほんの わずかの年寄りが、先祖伝来の土地に残って暮らしを続けようという意 志を貫いているにとどまります。
Free & Easy :
最後の質問です。先住的な、伝統的な暮らしとは?「伝統」とは何を意味するのでしょうか?
Pauline Whitesinger :
穀物を育て自分の食べるものを自給すること。伝統的な土の住居を持つこと。男性用、女性用のアースロッジがなくてはなりません。人間の誕生はこのようなロッジの中で迎えられねばなりません。そうすること で、人間の生命の根っこがいつもそのロッジとつながっているのです。 天然の泉から水を得ること。西洋医学の医者には行かずに、薬草や祈り の歌、伝統的なメディスンマンを通じて治癒を試みること。家畜から乳 や肉を得たり、荷物を運ぶこと。「現代的」な馬車を使うこと。自宅に 織り機を持つこと。今も羊の毛皮の上で寝ている家庭もあります。
Free & Easy :
どうも有り難うございました。
Pauline Whitesinger :
どういたしまして。私の話を聞きにきてくれて有り難うございます。日本よりももっと近くに暮らす私たちの民ですら昔の話を聞こうとしないのに、日本の方に関心を持っていただいてとても光栄に思います。
★山口晴康より
昨秋Free & Easyの現地インタビューの頃、ビッグマウンテンの最近の経緯と状況を確認するのにあたり幾つかバヒ・キャダニー氏に質問しました。
ポーリーンのインタビューと一緒に読んでもらえれば現在の状況把握に少しは役立つと思います。
ALL MY RELATIONS !
ハル山口晴康
ハル:Free & Easyに2000年のウォーク以降現在までの経緯と状況を簡単にまとめてくれれば掲載すると依頼があったので、それで、何点か確認させて欲しい。
1)ピーボデイ社の石炭露天堀の採掘した石炭を運ぶ方法が地下水くみ上げてそのパイプラインで運ぶ以前の方法ではなくなったと聞いているが、もうそれは実施されているんだろうか?
バヒ:何もまだ開発していない。ブラックメサとカエンタ鉱を合併するという話。パイプラインを撤去するということは彼らは言ったことはない。
ハル:2)またリーマンブラザースがピーポディの親会社だとして、NYでの株主総会の後ロバータがスピーチしたのは、2001年5月11日(ワォ!9/11の丁度4ヶ月前だ!)だったが、そのリーマンブラザースが倒産したことで、何かビッグマウンテンにはいい影響がでそうかな?
バヒ:アメリカ政府は、石油、ウラン、天然ガス、石炭を開発することがアメリカ経済のためになると考えている、というのが私の見解。
1) 気候変動派と2)企業利益/失業者との間の戦争のようなものだ。移住法が変わることはない。社会と世界の考え方に大きな変化がおきないかぎり、移住法をアメリカ政府に撤回させることはできない。人類は予言に従うべきだし、世界の300名以上の著名な科学者が行った90以上の研究によって示された「人類は自らと、未来の世代を危機におとしいれている」ということを認めないといけない。そして、企業システムが我々にもとめるあり方ではなく、我々の自然なありかたに価値を見いだすべきだ。
ハル:3)モハベ発電所の老朽化により環境基準を満たさないため停止もしくは廃止?または改善する?と色々情報が出ていたけど、結局どうなったのか?
バヒ:ピーボディの新しい計画(ブラックメサプロジェクトー最終環境影響調査書)は、米国の地表鉱業局での認可を待っているところで、ブッシュの退任前に認可されることを期待している。この計画によると、水資源の利用を制限または止めるのではなく、さらなる井戸を掘ろうとしている。
ハル:4)新たに石炭発電所をいくつか建設するというニュースは本当か?
バヒ:南カリフォルニアエジソン(SCE)も同じ事を言っている。"モハベの状況は、最近のSCEによるモハベ報告のとおりである。いくつかの当事者がモハベをガス発電に転用すべく購入を検討しているようだ。
同時に、SCEと他のモハベの協同オーナーは、売却が成立しない場合の対策として発電所の解体と、跡地利用について計画をすすめているということだ。
この努力の一貫として、SCEと協同オーナーらは、エンジニアリング・デザインコンサルタントに、モハベ発電所を太陽熱発電所(ソーラー・天然ガスのハイブリッド発電も含む)に転用できるかどうかの、コンセプトレベルでの調査を依頼している。
SCEはこの調査が2008年度末には仕上がると見込んでいる。"
ハル:5)新たな強制移住のデッドラインもしくは締め付けは起きつつあるのか?
バヒ:2003年に提出されたアリゾナ州議員マケイン法案S1003 はまだ生きているが、再度提出されるのを待っているかもしれない。この法案は移住局の閉鎖と、最終的に誰が土地に残っているか、誰が居住権を主張し、対価を要求する(実際には対価は与えられなくても、記録するだけ)かをアセスし、移住プロセスをいかに集結させるか判断する”ものだ。最終デッドラインは2000年2月だったはずだ。
ハル:6)オバマになって何かビッグマウンテンにとって期待はあるか?もしくは何かグッドニュース、明るい兆しはあるか?または逆の問題が出てきているか?
バヒ:頑固オヤジ(*バヒ本人)と、数名の伝統は長老は主権を持った民として残っている。つまりビッグマウンテンはひとつの国だ。アメリカ政府がインディアンに対抗し続ける限りそれは良い知らせとはいえない。カナダ政府によるモホーク族の土地への侵略、ショショニの土地を核廃棄物の処分場にすること、トホノオーダムの民の墓や聖地を破壊して国境の壁をつくること、アラスカの手つかずの聖地で石油を採掘すること、そしてオバマがアメリカ産の石炭資源に依存するピーボディ・エネルギーを支し、”クリーンに燃焼せよ”と期待すること。
ハル:以上、バヒ自身の今後のビッグマウンテンの予測なども教えて欲しい。何か少しでも明るいニュースを期待したいけどね!
バヒ:ビッグマウンテンは、アメリカ南西部における先住民の最後の砦といえるかもしれない。アメリカの活動家と、インディアンの国々は、最終的に支配されること、アメリカ的な考え方を受け入れた。たとえば、シエラクラブ、ブラックメサ水連盟、ネイティブ・ムーブメント、Save the Peaks Coalitionのいずれも、”ビッグマウンテンにおけるディネの強制移住”を口にしたがらないが、石炭採掘に反対することで巨額の資金を得ている。そういう意味で、ビッグマウンテンは、これらの活動団体や新しいインディアン世代の”新しい夢”の邪魔になっているように思える。私たちは伝統的な暮らしを全うし、トゥンカシラの前において誇り高く存在し続ける。
ミタクエオヤシン