Big Mountain 長老の叫び

2000年2月 その聖なる大地とそこに住む人びとは消えてなくなるのか!
ビッグマウンテン闘争の精神的支柱のひとり、ポウリーン・ホワイトシンガーは語る....

いまビッグマウンテンは混乱している…。強制移住への抵抗が始まって以来、いろいろな考え方がここに持ち込まれてきた。政府はここを出ていけと言い、住民は困惑し、そしてさまざまな支援を求めた結果 、さまざまなアイデアがさまざまな形でやってきたというわけさ。いまや私はこの長い抵抗のなかで孤独を感じている。大変な困難な時を迎えている。それは家族、親戚 が訪ねてきた時でさえその孤独は癒されず、時には親戚の者でさえ憎く思ってしまう。それが永年にわたる闘争の招いた結果 であり、そのことでさえも自分自身との闘争になる。たくさんの人が支援してくれるけれどそれぞれが違ったやり方をするので難かしい。私自身も精神的に混乱し、身動きがとれない状態になってしまっている。このいまの気持ちをうまく説明するのは難かしい…。

親戚や家族、仲間達とおだやかな付き合いをしたいと望むけれど、政府やBIA(合州国インディアン局)からの圧力によってどうしたらいいのかわからなくなってしまう。毎日毎日、軍隊の飛行機が空を飛びまわり、警察から圧力をかけられるこの状況のなかで、私に考えれることは唯一つ、ここの大地を愛し、このクニを愛してゆくということだけ。ここの土地で亡くなり、この地で眠っている祖先達のことを想い、私たちが愛をもってそうすることだけが私たちの気持ちを楽にしてくれる。お金とか、さまざまな支援を私たちは受けているけれど、一番大切に思っていることは、ここの大地を愛するということ。心の奥底からそう願っているし、それこそが真の力だと信じている。

政府はお前に未来はない、と言うけれど、私はまだまだたくさんの事を未来の為にしたいと考えているよ。部族政府が支援者を呼んで援助をしようとするけれど、私はそれには一切関わりたくない。ただこの祖先から受け継いだ土地に住み続けていたいだけ。伝統的な生活を続けてゆきたいと願うだけ。ほかの年寄りや長老たちも同じだと思うけれど、自分たちには英語もわからないし、実際まわりで何が起きているのかもわからない。私らには伝統的な生活はわかるけれど、まわりの世界で起きている事は理解できない。だからフラストレーションもたまるよ。

このあたりもみんないなくなってしまった。私は皆がここから出ていくのを見つづけてきた。ここに立ち寄って「さようなら(GOOD BYE)」と言うのを耳にしつづけてきた。いまでは住んでいる人の居場所をすべて指で示せるほどになってしまった。このあたりには3人、北の方角には3人、たったそれだけになってしまったよ。代わりにブーツを履いてナイフと銃と手錠を持った警官がしょっちゅう出入りする。私の気持ちはそれで重苦しくなる。不安になったり怖くなったりで私は毎朝目覚めるたびに、今日こそ最後の日かも知れない、と思うようになってしまった。未来のことなど何も考えられず、心の中が、まっしろになって…。

そのうち「メエー」と言う羊の鳴き声で我にかえる。時には馬の鳴き声だったり、牛であったり、それらの声で徐々に私は心に平和をとりもどす。こういう気分は抵抗を続けている人にしかわからないとは思うけど。そして毎朝、昇ってくる太陽に向かって「今日一日、私がこの祖先からの土地の上で平和な一日を、警察なんかに邪魔されずに過ごすことが出来ますように」と祈る事だけ。それだけしか私にはできないし、それはとても美しいこと IT IS SO BEAUTIFUL(この言葉自体ディネのお祈りの最後につく言葉でもある)

ここビッグマウンテンやブラックメサあたりにはあらゆる方角から水やオイルをとるために大地に穴をあけに人が来る。そのためここに残った数人の年寄りたちは工業、資本主義者らの標的とされている。私の住んでいるところも他の年寄りが住んでいるところもその土地の下にたくさんの石炭があるからね。1960年代に彼らはここにやってきて穴をいっぱい掘ってどれくらいの量 の石炭があるか調べていったよ。

昔、私がまだ少女だった頃に、父や母からいろんな事を教わった。いまはその父も母もいなくなり私一人だけになってしまったけど、その教えはいまも残り続け、その2人の教えが私の中でいままさに一体となろうとしている。彼らは予言についても語っていた。「ここの土地はいつの日にか破壊される時がやってくる。お前がそれを見るかも知れないし、お前の孫かもしれない。そのためディネの人々はもっと強くならなければいけないし、伝統的な生き方に誇りを持って、より精神的な生き方をしなければならない。その道こそが唯一この大地を保つ道なのだ」ってね。

今日、政府はより強い力でもってディネの生き方を壊そうとしている。ここに住む伝統的なディネの人は皆、羊を飼っている。ある日、悪いコヨーテがやってきて羊たちは皆こわくなり柵の中に逃げ込んだ。ドアを閉める寸前にコヨーテはその柵に入り込み羊たちを殺し始めた。しかしある羊は柵を飛び越え、そして高い大きな岩に登り仲間の羊たちが殺されてゆくのを見た。柵の中の羊がすべて殺されたあと、残されたのは岩の上に隠れたその羊だけだった。そしてこの悪いコヨーテ(合州国政府)はWINDOW ROCK(部族政府のある場所)に行ってたくさんのお金をばらまき、岩の上、わずかに生き残った羊(長老)たちをその上から引きづり降ろそうとしている。合衆国政府はインディアンに金をやり、インディアンにインディアンを捕えさせるようなやり方をしているのさ。

WINDOW ROCKのリーダーたちは何人もいるけど、どいつもこいつもお金のことしか頭になく、それでいつも問題を引き起こしている。リーダーが誰に代わっても同んなじことが繰り返され、いつかディネの内部で戦争がはじまるだろうよ。政府はお金で部族政府をコントロールし、インディアン内部を分裂させ、治安の名のもとに軍隊を送り込み、多くのディネが殺されるだろう。それでも多くのディネの人は滅亡への道を選び、伝統的な道を望む人はあまりにも少ない。アメリカの工業化社会はどんどん進行し、大地に穴をたくさん掘り、あげくには空にも穴をあけてしまった。

彼らは創造主のつくられた法を破ったのさ。

彼らはここへやって来ては、水や石炭、ガスなどを大地から取り出すものだから、いつの日にか大地は陥没してしまうだろう。この大地には水も石炭もガスも必要なものだからそれらを取ってしまったら大地はもう生きていけないだろう?。これと同じことがここの長老たちにも起きている。彼らの身体から、精神から、心からエネルギーを奪ってしまうのでもう生きてゆくことができなくなってしまっている。ピーボディーとかの採掘会社が先祖伝来の墓から聖なる社まですべて破壊してしまったので、ブラックメサ周辺ではすっかり形が変わってしまい元はどうだったのかさえもわからなくなってしまった。いまやこの土地の上に残った年寄りたちは数個の石ころのようなもので、政府はこの石を拾って遠くに放り投げるだけ、あとは何もなくなった大地を好きなように掘り返すだろうよ。

私たちのようにここに残ったわずかな年寄りに何ができるというんだい。ワシントンDCやウィンドウロックに行くこともできないし、誰にどう何を話せばいいんだろう。

でもそこらに生えている木や転がっている石、空の雲に話をすることはできる。いま、人々は私たちの話を聞こうとしないのだから大自然に向かって話をするしかないだろ?。それこそが私の父と母が私に伝えた予言の意味、精神的に生きるっていうことなんだ。

来年の2月になってみないとビッグマウンテンがどうなっているかは誰にも定かでないけれど。それでも私たちはたくさんのセレモニーを持ちたいと思っている。ふさわしいと思われるメディスンマンたちに手紙を出して共に祈ってもらえるようお願いするよ。私たちが自然に向かって話をするのと同様に私たちの話を聞いてくれる人たちにも伝えたい。

精神的な方法でのみ、この母なる大地を助けることができると信じているからね。

私たちがここで政府に抵抗を続けていることは、私たちがこの大地に対して祈ることと同じこと。ここは残された数少ない自然(ナチュラル)な場所だからね。ナチュラルという意味は、そこに人が居てその場所が聖なる場所であるということを理解しているということ。ほかにも多くの土地があるけれど、そこにはもうインディアンがいなくなってしまった…。いまの時代は大変困難な時代。インディアンがインディアンを利用し、迫害するのを見て私は混乱するばかり。

政府や弁護士はここに残った人たちと交渉するにあたって特別 なやり方を考えだした。それはインディアンの説得にインディアンを使うということ。インディアンなら伝統派の年寄りたちが何を考え何を言えば気分が良いのか知ってるってわけさ。そうやって私らのうしろ、となり、まえ、まわりをぐるりと取り囲んで土地の賃貸契約書にサインをせざるを得ない状況をつくるのさ。そういうやり方でこの2年のあいだに、このあたりの60人ほどがすでにサインをさせられちまった。だから残ってるのはこのあたりでは私を含めて3人だけになってしまった。

ちょっとそこらを走ったら、移住期限までの約束で住まわせてもらってる新築の家を多く見かけるだろうけど、みんなそんな家はあんまり好きじゃないようだ。私は新しい家は好きだけど、こう言ってやったよ、「私にサインをさせたけりゃ、あんな安普請の家じゃなく、最高級の大理石で出来た家ぐらい用意しな」ってね。いずれにしても私は書類にサインをしなかった。

私が役人に言ったことは、「私は一本の大きな木。私にはたくさんの子供たちがいて、それはたくさんの枝のよう。私にはたくさんの孫たちもいる。もっとたくさんの枝がまたその枝から生えている。私が今日この書類にサインをすれば私の子や孫の生命を断つのも同じこと」。私がサインをすれば役人はすぐにチェーンソウを持ってきて枝を切り落とし木を切り倒すだろう。そのあとには何も残らない。私はただの切り株となってしまう。30年後、50年後、私の孫や子孫が本でこの事を読んだとする。この子達は思うだろう。「私のおばあちゃんは私たちの文化や土地を売ってしまったんだ」って。役人たちはそうじゃないと言う。あんただけのことだと言う。でも私はそうは思わない。

伝統的な生き方には世代を切り離すなどということは考えられないからね。書類にサインをした他の多くの人は強要されて、それに屈してサインしたということを私は知っているよ。

でも私はいまだにここに居る。

 

 

ポウリーンは70代半ばぐらいだと思われる女性でビッグマウンテンに強制移住の話が持ち上がった時、一早く抵抗の意志を示し、自分の土地にピース・キャンプを作り、ディネはもとより他部族、AIM(アメリカン・インディアン・ムーヴメント)、非インディアンサポーター(今は亡き島貫潤二上人、日橋政男氏ら日本人も含まれる)を集め、ビッグマウンテン闘争の中心的女性として他の長老たちと共に抵抗運動を進めてきた人です。現在も強制移住区域に住み、EDUCATIONAL WITNESS CAMPを開きアメリカ国内、ヨーロッパ、日本などから若い人を集め伝統文化の学習の場と機会を提供しています。このメッセージは1999年7月6日、ビッグマウンテン・サンダンスの直前ディネ・アクティビストのバヒ・キャダニー氏の案内で私たち日本人が訪れた際、語ってくれたものです。英語をはなさないポウリーンの話をバヒが通 訳してくれたものを日本語に訳しています。

2000年2月1日までに、ポウリーンを始めサインを拒否する残りの人すべてに強制的に退去命令が出されています。私たちはすべての行動を祈りとして、何としてでもそれを止めさせるよう求めていかなければなりません。ビッグマウンテンに起きていることは、一地域、一民族の問題だけに留まらず、現在世界のすべての場所で起きていることのひとつの大きな象徴であると考えます。私たち日本においても同じこと。他の民族の痛みを自ずからも分かち合い私たち自身の問題として共に感じ考えてみて下さい。2000年2月まで残された僅かな時間、私たち一人ひとりに一体何ができるのかということを。


ビッグマウンテンに注目してください。
今この時代に一体何が行われようとしているのかを。