―"いったいどうなってるんだ、この冬は? 雲は、かつての姿ではない"―
― ビッグマウンテン、ディネのおばあさん。2002, 1月。 |
過酷な冬の干ばつが、ビッグマウンテンに住むディネを苦しめている。 この "近い未来" は既に、ブラック・メサ、部族・連邦政府の不始末で井戸水、および水質の改善が一切行われていないこの一帯を見舞っている。現在のこの干ばつ状態が、ひどい災害をもたらすかもしれない。実際、この25年間に何百というディネの住民に対し行われてきた“移住計画”は、ディネ村落の水質・水利用状態を悪化させた。抵抗派住民がかつて利用していた井戸(もともとの住民が利用していた水源!)はすべて閉鎖された。さらにひどいことに、ブラック・メサの強制移住に抵抗する住民の住居近辺からは日々、帯水層から大量の地下水が、ピーボディ・石炭会社によって汲み上げられているのである。この、井戸が完全に閉鎖された120キロ四方に住む100を越す各家庭は、政府の寄宿学校(ボーディング・スクール)に設置されたただひとつの水汲み場から貴重な生活用水を得ており、さらに幾家庭かはピーボディの "公共" 井戸からも水を得ている。さて現在、この寄宿学校に置かれた水源まで閉鎖されてしまった。人間の生活用に利用することを限った質の悪い水だけを水源とされたことで、住民間に、ある流行りの病気も生まれている。 ディネの文化は常に、牧畜社会の上に成り立ってきた。そして最近の井戸の閉鎖、あるいはピーボディ石炭会社の大量の地下水汲み上げに由来する天然の涌き水の枯渇のため、現在ディネは家畜の飲み水のためにもわざわざ水を汲みに行かなければならない。政府が許す範囲内の羊・やぎの群れと何頭かの馬の飲み水として150〜200ガロン(約600〜800リットル)の水が毎回必要になるので、各家庭は車を常に維持しないことには生きていけない。家畜がこれだけ飲むためには毎日のように水汲みにいかねばならないし、同じ日に2度行くこともある。牛は放し飼いにされ、飲み水を探しに飼い主の家からはるか離れた場所まで歩いていくので、時に連邦政府のインディアン警察(レンジャー)に捕まり、押収、没収され、二度と戻らないこともある。しかし牛を自分の地域内につないでおくならば、冬には干草を与え続けなければならないし、羊同様、飲み水を大量に用意しなければならなくなる。 ディネの牧場主たちは裕福ではないし、家畜所有者にあてた保険や、大きな水運搬トラックも持っていない。また多くの年老いた抵抗派住民と家畜所有者たちには、移動手段がまったく無いか、あっても水・干草そして薪を取りに岩山や険しい山道を長年にわたって通ったために車がぼろぼろだ。こうした実用品や車にはたいてい、現金を支払ってメンテナンス(補修管理)する代わりに、針金による固定とか、ゴム・チューブの紐でつなぎ合わせたりして保っている。結局、これが古来の生活スタイルしか知らない住民なのであり、みんなすでに、危険を伴う重い水汲みや大きな干草を扱うには年を取りすぎているのである。生活には肉体労働が必要だし、また日常の雑用には限りがない。伝統派住民・牧場主たちは日の出から日没まで働く。アメリカの普通の老人が(仮に無理強いされても)このように生活できるものだろうか? ここの多くの老人たちの住居には、電気・ガスさえ通っていない。サバイバルが日々の生活の中に存在している。そして今、一番近所であった水源が閉鎖され、住民あるいはその子供や孫たちが、15〜30マイル(25〜50キロ)を車で水を探しに出なければならないという現実。 地元の寄宿学校が、住民の生活用水や家畜のためではなくて学校で利用するためだけにその水源を確保したいのはわかる。しかし、これがアメリカ・インディアン局(BIA)、内務省と部族政府によって制定されていることはまったく不当なはなしだ。BIA信託資金(たいてい微々たるもの)と、政府と州の基金、そしてエネルギー開発の税収から何百万ドルもの金が集まっているというのに、もっとも必要とされる場所にはそれは届いていないのである。インディアン・ヘルスサービス(IHS)は、リザベーションの奥地域まで、住民が飲むにふさわしい水の供給を行う責任があるし、住民は必要があれば、そしてそれが“可能”であれば井戸を掘っていいはずだ。明らかに、政府はビッグマウンテンとブラック・メサ一帯の住民に便宜を与えることはもとより、その存在すら認められない "不法滞在者" として扱う以外に、彼らの必要・需要をまったく頭に入れていない。インディアン・リザベーションにおけるこの水源改善の政策は、伝統派の抵抗住民たちへ特に当てはめられた、最終的な強制立ち退きのための戦略ではないか? 結局、そうなのだ。水は、プルトニウムや石油と同じように、産業と "自由" の世界にとって貴重なものなのだろう。
この2002年夏にはいったい、ビッグマウンテンとブラック・メサの水の需要はどうなるのだろう。地球温暖化現象によって、このアリゾナ北東の高乾燥地帯の降雨量は、通常量に達していない。過去この地帯では、ディネ生活文化上その甚大な家畜の数にも関わらず、それを養うに足る涌き水、泉を充分満たす降雨量を保ってきた。しかしこの20年、記録によっても明らかになるだろうが、この地域の乾燥状態はひどくなっている。政府と政府と共同の専門家らはその事実も、なぜこうしてインディアンたちの水に対する権利が失われていくのかも、機密裡にわかっている。"政府共同専門家" はまた、記録では過去20年間におけるこの地域の降雨量は、地下水脈を満たすに充分な(通常の)量であった、とさえ述べるだろう。しかし、井戸水と泉はここに来てすっと干上がっているし、残っていてもとても低い水位になってしまっていて、それは寄宿学校が毎年の懸念する理由にもされている(*訳注参照)。 ピーボディの水文学専門家と、N帯水層からの大規模な水利用の関係者の双方が、仮定された石炭採掘作業の深さや、帯水層の枯渇をまねくポイントに関し、環境擁護者たちをずっと誤解させている。“専門水文学者”が私たちに知らせないこととはなにか? それはブラック・メサを形成している地質学的構造の考察だ。地質学的構造というのは、この地域の土地の断面図がどうであるかということである。ナバホ・サンドストーン(砂岩)の地層(また N 水層の存在するどこでも)から大量の水をポンプでくみ上げるとどうなるのか? ガラスの水槽が、ビー玉や小さい玉で埋められているのを想像してほしい。その一つ一つの玉の間のあいだを水文学者は、液体が行き渡ることが出来る「浸透率」と呼ぶ。 そしてこの液体を、わずかな玉の間の空間からピーボディによって抜き取られる。ここ十余年の土地の旱魃状態が示すように、それを元の状態まで満たすにはさらにずっと時間がかかるのであるが。そしてこの(古代の土地、沿岸の砂丘から来た)砂のまるい粒同士はどんどん幅がせばめられ、最終的に粒と粒の空間は僅かになるか、完全にくっつき合ってしまう。全体のしみ込む構造と地層の緻密さがなくなるにつれ地層は薄くなり、砂岩の浸透性が失われてしまったのだ。それが原因で年に頻繁に起こっているマグニチュード2.3から3.5の小さな地震群、ノーザン・アリゾナ大学の北アリゾナ地震センター(NAEC)が確認している。これは日々の石炭採掘場での地中爆破作業との関連はない。また採掘場との関連性も、センターが詳しく検査している。地震センターは、この大規模な爆破の中心部が爆破や地質学上の構造に対する緊張と弛緩に由来するのかどうかの確認に取り掛かっている。 ビッグマウンテンを囲む大地の自然形態がいま変化しているが、それは長年そこに住んでいる住民とそこで羊追いをする者しか気づいていない。現地の住民、あるいは伝統派のディネの抵抗居住者は、その放牧地の牧草地帯の大地に、ある幅をおいて、いくつかの、短く奇妙な亀裂を見つけている。私は15年前、ここに住むあるおばあさんに、ビッグマウンテンの山頂の南西にある“山頂に広がる長い亀裂”のことを聞いていた。両親の「違法所有」である羊追いをしながら、私はその話が本当なのか見に行ってみた。そこには、10〜15センチメートルもあいだの開いた割れ目が、泥板岩の尾根へと続いていた。長さはフットボール(アメリカン・サイズの)2つ分はある長さだろう。それから8年後に再び私はそこへ戻ったが、亀裂は風化されてほとんど見えなくなっていた。それから私はさまざまな、地元の人権侵害問題や生活文化の資料も含めて調査したが、このような事柄に関する記事は一切見つからなかった。私はさらに、この亀裂が南東から出て北西方向を向いていて、その8マイル北東にはピーボディ採掘所があることに気づいた。亀裂は、N 水層の位置するナバホ・サンドストーンの地層が薄くなって起こる陥没の影響ではないのだろうか? ピーボディ側のスポークスマンは、この N 帯水層からの水くみ上げが、地域のホピ・ナバホ住民が利用する井戸や天然の泉(このレポートにも紹介した)の水源には影響がないとしてきた。この地帯の砂岩の地層中には粘土と泥板岩で出来た、ある「層」が存在し、その層がN層のふたになるから、層の上にあるホピとディネ住民の利用できる水源には差しさわりはないのだ、とピーボディ側は言う。私と私の友人の元地球物理学者はそれに対し、沈下現象など地層の変形が起こっているとすれば、その水源からの水の排出で、粘土と泥板岩に亀裂が起こりうると述べた。ピーボディはしかし、この先住民族の羊追いや私たちの主張は‘まったく’信頼できないものである、と公言している。この水の問題に関しては専門的な部分でもっと研究の余地があるが、ここは科学者や専門家と、関わりのある伝統派ディネに任せたほうがいいかもしれない。 地面と空気中に存在する水分の "伝導性" についてはどうだろう。通常は西洋科学が用いられるが、ここで伝統的、あるいは古代先住民の解釈を見てみよう。ビッグ・マウンテンのディネの人々は、水の精霊を信じている。精霊が天然の泉を創造したのだから、両者は関連している。太古のディネたちは、水の供給を失わないためには、聖なる供物と祈りをこの泉・湧き水へ捧げなければならない、と一族に伝えてきた。しかしいま、地元ディネ人口はすさまじく減少し、ここに残った人々は抵抗運動とそこから生まれた混乱状態に陥ってしまっている。そしてこういった聖地、あるいは教えさえ忘れられた場所を訪れることができないのだ。ピーボディ石炭会社による無制限な制圧が、かつて自尊心高く自給生活を送った人々に対しこのトラウマをつくった。いま、このエネルギー資源巨大会社は、地下帯水層からの水の乱費、そして地面・空中間の水分伝導の断絶をしながら、この土地の水源を標的にしている。 太古からのホピとナバホの予言は、20年来のこの強制移住計画と土地分割作業が始まった当初からすでに述べられていたが、今も、こう警告する。"もし、採掘や、ブラック・メサの水を全部吸い上げることを許せば、大地の精霊そして水と植物もすべて消え失せる。さらに病気が、中には治療不可能な病気が、人びとの間に蔓延するだろう。インディアン同士が反目し始め、それぞれへの敬意さえ失ってしまうだろう。この土地を見捨ててはいけない。移住計画を受け入れてはいけない。私たちが創造されたときそう教えられたように、この土地の番人として、私たちはここに残るべきなのだ。" このビックマウンテンでの闘争は、伝統派ディネ・エルダー(長老)の指導のもとで続けられなければいけない。恐るべき数の外部からの合法かつ巧妙な策略群、外部から当てられた環境基準、そして少数の、自己中心的な彼らのアジェンダに着手するための奨金をしつこく欲しがる、"ほんものの" 外部・扇動者たちによって、伝統派ディネの発言はずっと黙殺されてきた。しかしディネと先住民族の同胞、全国の先住民族ムーブメントによって、再び発言されなくてはならない。そして自分たち古来の土地における自治を果たすため、信頼を取り戻すべきなのである。 外部からのサポートは、この指導を尊重して、またその指図が偽りないものかどうか、確信のもとに進められるべきだ。外部サポートはなによりもまずディネが、大地と空の世話人であるために精神的に必要な条件を満たす力となることが大事だ。今までは、畑の収穫、羊追い、ディネの生産品の売買、お年よりのための食事の世話、焚き木の薪割り、また土地・道具のメンテナンスの世話…というような、エルダー(年長者)が求めたときに応じてもらう条件を含む現地でのサポートが中心だった。しかしここ
みんなで協力して仕事を進めるにあたって、闘争渦中にいる人たちからの発言をもっと広めるための改善策が要る。特に、"アメリカ式の" 宗教の自由、アメリカ国憲法、市民権、そして部族規約に関する知識のまったくない、伝統的生活を送る人たちにとっては。闘争中の彼らの古来のスピリチュアルな信仰と習慣を尊重するのなら、私たちすべての人間が人間相互間において自治権を持つはず。人間性から見たとき、部族政府(Tribal Governments)がいかに住民の独立性や共同裁判制度の正当性を偽ってきたか良くわかる。メッセージは明確・声高かに、部族政府がいったいいま何をしているのか、この乾いた大地を見殺しにしているだけではなく、いかに住民への水供給を断つ行為を許しまた扇動しているのかを、直接彼らにファックスや電話、またe-mailで訴えて欲しい。抵抗住民に対するアメリカ政府の "テロ" 履行の計画を隠してきた点で、部族政府はじっさい強く責められるべきである。伝統的インディアン社会の自治権を土台から奪い、また天然資源に対する国家的保証と、インディアンの国・居住区中に、有害な放射能汚染物質や核廃棄物処理場を作るため連邦政府の国内からの補助を受けてきたことを、部族政府はしっかり思い出すべきだ。部族政府が基本的に、調和と平和を重んじる古代先住民族文化の存在を崩壊させる目的の、反インディアン・連邦政機関のようなテロリストの支部をずっと匿い続けているのだ。 (*訳注) (ささき なおみ 訳) |
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