ブラック・メサの地下湖

★ブラック・メサ:石炭輸送のパイプラインのため、
 大量の地下水が失われている

 1968年に、Peabody石炭会社は、ナバホとホピの両部族政府と採掘契約を交わし、ビッグ・マウンテンの北側で石炭の大規模露天掘りを始めた。年間採掘量 1000〜1200万トンの石炭のうち、約450万トンは、粉砕した石炭を水圧を利用して送る長さ440kmのパイプラインにより、ネバダ州ローリン付近のモハベ火力発電所へ送られる。そのために、毎年450万トンの地下水が汲み上げられ、失われている。

 広大なブラック・メサ地域(広義=ビッグ・マウンテンをはじめ、ホピ居留地のほとんどとナバホ居留地の西半をふくむ14000kuの地域)の地下深部には、直径130kmの巨大な地下湖とでも言うべき帯水層(図のN層)がある。石炭輸送の水は、そこから汲み上げられている。部族政府や合州国インディアン局も、同じ帯水層から70本の井戸で民生用の水を汲み上げている。

 自然状態では、ブラック・メサのまわりから地下の帯水層へ流れ込んだ水は、長い年月ののちに泉となって湧き、ラグナ・クリーク、モエンコピ・ウォッシュ、ディネビト・ウォッシュ、ポラカ・ウォッシュの流れになる。乾燥したブラック・メサの地下に莫大な量 の水が蓄えられているのは、その地質構造による。ブラック・メサの地下では、多量 の水を含むことができる3〜2億年前の砂岩層が、ちょうどお盆のような形に湾曲している。ビッグ・マウンテンの下あたりがその直径130kmの“受け皿”の中心で、皿の底の深さは1000mもある。そして、その帯水層の上には、水をとおしにくい泥岩層がおおっていて、ちょど蓋をかぶせたようになっている。

 私は1980年にコロラド州ボウルダーでジョーン・プライスに会ったが、彼女が強調していたのは、この地下の湖がブラック・メサを特別 な場所にしているということだった。地下の湖が雲を招き、ブラック・メサを地球上で最も雷の活動が活発な地域にしている。雷は大気のイオン化をもたらす。そしてまた、その雲が、ホピのとうもろこしの根が届く深さまで地下水を吸い上げるのだという。

 合州国地質調査所によれば、地下深部の帯水層からの地下水の汲み上げ量 は、石炭のパイプラインと部族政府やインディアン局による民生用とを合わせて1997年には840万トンに増え、水位 が低下しているという。ホピの伝統的な知恵は、わずかに湧き出す水をいただくだけで、地下の湖がそのままあることによる恩恵を知っていた。一方、地下の湖が縮小すれば泉は枯れ、とうもろこしも育たなくなり、地球規模の気候変動が起こるだろうともいう。乾燥地のため帯水層に流れ込む水の量 はわずかである。地球が長い時間をかけて蓄えた水を大量に汲み上げ、石炭とともに440kmの彼方へ流し去るような石炭輸送の方法は許されるべきではない。


               (2000・1・16 河本和朗 記)