ナバホとホピの水を守れ!!
*アリゾナ在住で伝統的ナバホ織りを学ぶかたわら、ビッグマウンテンの住人の自立支援のため、現地の羊毛を日本に紹介している石川ズニさんからの現地レポートです。 |
アメリカ合衆国アリゾナ州北部、アメリカ先住民ナバホ族とホピ族の居留地のあるブラックメサ周辺では、彼らの暮らしを長い間支えてきた古代帯水層からの、地下資源会社による大量地下水汲み上げが、最優先の環境保護問題として、多くの人々の関心を集めている。
問題になっているのは、ナバホ・アクアファー(通称 N アクアファー)。 というのも地下資源会社、ピーボティー石炭会社の大量の地下水汲み上げによる。ピーボティー石炭会社は、毎日330万ガロン、年間にして4400 エイカーフィートもの水を、過去 30 年間にわたり、N アクアファーから汲み上げてきた。水は石炭運搬のために使われる。粉末にされた石炭と混ぜ合わされて泥状にされ、スレイリー・ラインで 273 マイル離れたネバダ州、モハベ火力発電所に運ばれるのだ。 ピーボティー石炭会社の 1 日で汲み上げる水の量は、近隣のフラッグスタッフ市(人口 56,800 人)全体で消費する 1 日の水の量の 2.5 倍、ホピの村、キコツモビにおいては 1 年分に相当するという。ちなみに水の値段だが、1966 年の契約では、1 エイカーフィートあたり、1.65 ドルという法外な安値だった。(インディアン居留地では当時このような不平等なビジネスがまかり通った。近年になってようやく修正されつつあるが…、まだまだ先は長い。)後の 1988 年、1 エイカーフィートにつき、150 ドル(2800 エイカーフィートまで、それ以上は 300 ドル。)に値上げされた。また、水の汲み上げ量の制限については、契約当初から話し合いはない。(1 エイカーフィート =3 25.851 ガロン)もちろんこの問題は今に始まったことではない。ビッグマウンテンでは、強制移住の問題と並んで、ピーボティー石炭会社の大量地下水汲み上げが環境に与える悪影響について、長い間論議されてきた。エルダーはきまって、「長い間の大量の地下水汲み上げで、大地はすっかり干からびてしまい、今では雨も降らない。」と訴えたものだ。 近年、この問題が脚光を浴び始めたは、まず第一に、それだけ N アクアファーの枯渇が深刻になっていることに起因しよう。周辺に住むホピやナバホの泉や涌き水が枯れる、減少するなどの傾向が著しくなっている。昨年 12 月 4 日付けの「ナバホ・ホピ・オブザーバー」によると、帯水層に沿って、異様な大穴が地上に出現しているという。これも N アクアファーの枯渇の前兆とみられている。 またホピ、ナバホ両部族とピーボティー石炭会社との間の石炭供給に関する契約が新しい段階を迎えていることにもよる。1976 年の契約が2005 年いっぱいで失効するのだ。契約を続行するのか、続行するとしてその内容はどうするのか、N アクアファーの問題、石炭鉱山使用料の値上げ、スレイリー・ラインの老朽化など、山積された数々の問題をどう解決するのか、など双方が具体的検討の段階に入っている。一方で、モハベ火力発電所の閉鎖をめぐる論議も加わって、これらの問題にいっそう拍車をかけているのが現実だ。モハベ発電所の問題については後に詳しく述べる。 元ホピ部族政府議長、バーモン・マサウェツバ氏は、ホピ族を中心に、草の根団体である「ブラック・メサ・トラスト」を組織して、 N アクアファーの地下水汲み上げ問題に積極的に取り組んでいる。彼は近辺の環境保護団体とも協力して、広く全米にこの問題を提起し、人々のサポートを集めている。ネイティブ・アメリカンの聖地復還をテーマに作成されたドキュメンタリー映画「ザ・ライト・オブ・レベレンス」では、第二部にホピの聖地ブラック・メサを取り上げている。これは全米向けテレビで放映された。また同じくドキュメンタリービデオ「マザー・ウォーター」もこの問題について詳しい。 バーモン氏の説明によると、「N アクアファーの水の年間使用量は、ホピ、700 エイカーフィート。ナバホ、2300 エイカーフィート。ピーボティー石炭会社、4400
エイカーフィート。N アクアファーが1年間で自然に再堆積する水の量は、3500 エイカーフィート。したがって、ピーボティーの使用がなければ
? アクアファーは守られる。」 N アクアファーの地下水汲み上げ問題は、現在さまざまな利害を超えた立場から、反対の声が上がっている。私たちも日本から彼らを応援したいものだ。ただし、この延長線上に次のような問題が横たわっていることも忘れてはならない。
さて、 N アクアファーからの地下水汲み上げを即刻中止するとして、次に問題となるのは、石炭の運搬をどうするか、ということである。スレイリー・ラインを使っての石炭運搬を続行するため、
N アクアファーの代わりになる他の水源を確保するのか、 ところで、ブラック・メサの石炭は、ネバダ州ラフリン市にあるモハベ火力発電所にスレイリー・ラインで運ばれているが、昨年からモハベ発電所の閉鎖が論議されている。 モハベ火力発電所は石炭を燃料とする発電所で、2つのユニットから成り、各ユニット出力790メガワット、合わせて1580ワットの電力を供給している。電力は主に南カリフォルニア、ロサンゼルス、ネバダ州ラスベガスに送られる。モハベ火力発電所の持ち主は、南エディスン社(56%)、ソルト・リバー・プロジェクト(20%)、ネバダ電力会社(14%)、ロサンゼルス公益事業部(10%)の各社。 昨年5月、持ち主の一人南エディソン社が、カリフォルニア公益事業部にモハベ火力発電所の閉鎖を申し出た。その主な理由は、1999年のコンセント・デクリーの遂行の困難さにある。コンセント・ディクリーとは、環境保護団体、シエラ・クラブ、グランド・キャニオン・トラスト、国立公園保護委員会が、さまざまなデータをもとに、大気を汚染し、オゾン層を破壊して、地球温暖化を促進するモハベ火力発電所を訴えた訴訟で勝ち取った行政命令で、それによると、モハベ発電所は、2005年までに公害防止のための装置を1兆ドルかけて設置しなければならない。今年2003年は、その手始めとして5800万ドルの出費をしなければならない、というものだ。これらを遂行できなければ閉鎖もまぬがれない。 この申し出は、石炭を供給するピーボティー石炭会社はじめ、ナバホ、ホピ両部族政府、鉱山労働者などたくさんの人々を混乱に落とし入れた。この申し出を不服としたピーボティー石炭会社とホピ部族政府は、早速、裁判所に訴えた。 しかし、一方で閉鎖が現実化されると、それに伴う経済的損失は深刻なものである。発電所、及び鉱山労働者の失業問題もさることながら、特にブラック・メサの石炭に部族歳入を頼っているナバホ、ホピ部族政府の受ける痛手は大きい。ピーボティー石炭会社所有のブラック・メサ石炭鉱山は、アメリカ合衆国最大、約200億トンの埋蔵量を誇り、年間約500トンの石炭を採掘している。 ブラック・メサ石炭鉱山は、その操業で約300人の雇用を生み出し、一人あたり年間平均7300ドル、計2200万ドルの仕事を与える。 昨年の10月には、チューバ・シティーでこの問題に付いての公聴会が行われ、ナバホ、ホピ部族政府の代表、ピーボティー石炭会社、労働者、環境保護団体など、さまざまな立場からの意見が、決定の鍵を握るカリフォルニア公益事業部の代表ロレッタ・リンチ、判事ブラウンの前で繰り広げられた。 現在のホピ部族政府議長、ウェイン・テイラー・ジュニアは、 N アクアファーからの地下水汲み上げを即刻止めて欲しい、とピーボティー石炭会社に要求しているが、モハベ火力発電所の閉鎖には反対している。公聴会では、「決定を待って欲しい。その間に N アクアファーに代わる他の水源を確保する。」と述べた。 また当時のナバホ・ネイション大統領、ケルシー・ベガイ(現在はジョー・シェリー・ジュニア)は、閉鎖には反対する立場をとり、公害防止装置を設置して操業を続けて欲しいと述べた。また、徹底して、過去の鉱山使用料の不正を訴え、現在進行中のピーボティー石炭会社を相手取った訴訟が決着しないうちは、新しい契約の話し合いには応じられないとした。 カリフォルニア公益事業部は、昨年中に決定を下すと述べたが、2003年2月の現時点ではまだ発表はない。 上院議員ジョン・カイル氏による新しいパイプライン建設案の発表 モハベ発電所の閉鎖がホットに論議されている最中、それに水をかけるように発表されたのが、アメリカ合衆国議会、上院議員ジョン・カイル氏による新しいパイプラインの建設案だ。チューバ・シティーでの公聴会と時を同じくする10月初旬に発表された。 まとめ 「まずは N アクアファーからの地下水汲み上げを中止することが、最初の1歩だ。」とは、シエラ・クラブ、フラッグスタッフ支部代表、アンディー・バスラーの言葉である。彼は学生時代、ビッグマウンテンで羊追いの手伝いをした経験を持つ。細面の繊細な外見とは裏腹に、討論になると一歩も引かない、強い信念の持ち主だ。近辺に住むネイティブ・アメリカンにとっての聖なる山、サンフランシスコ・ピークにあるジーンズ脱色用鉱石の採掘を、ネイティブと共に、閉鎖に追い込んだこともある。 伝統派のホピたちが広島、長崎に落ちた原子力爆弾を契機として、公開に踏みきったというホピの予言は、私たち人類は、現在第3次世界大戦を目前にしていると告げている。長老は、実際その前兆を見ているようだ。湾岸戦争の前夜に洗われたのと同じ奇妙な自然現象が、また近年西の空に現れたという話を聞いた。今の第四世界は最終段階にあるという。以前あった三つの世界と同じように、この世界もまた滅びるのだ。前回は洪水だった。今度は火だという。ホピの長老は、広島、長崎に落ちた原子力爆弾にその兆候を見たのだ。 人類の平和と地球の未来を信じる人間として、この問題が多くの人の祈りの輪につながることを願ってやまない。 N アクアファーの問題について、さらに詳しい情報を知りたい方は、次のホームページを参照下さい。 文責 石川ズニ(アリゾナ州在住) P.S.
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