サンダンス裁判報告 − ビッグマウンテン、アンナ・メイ・キャンプ
   
・「エルダーを含む 5 人のナバホ女性逮捕事件(7/11/2001)」
・「サンダンス・グラウンド破壊事件(エリック・クリテンドン不法侵入罪8/17/2001)」

― 石川ズニ(アリゾナ州)―

過昨年の夏、ビッグマウンテン、アンナ・メイ・キャンプのホピ部族政府の許可なしに行われたサンダンスをめぐる二つの事件の陪審裁判が、2 月の末、及び 3 月に行われました。簡単に事件の概要と裁判の結果を報告します。
 
ひとつめは、サンダンス・セレモニーの生命の木の運ばれた日、アンナ・メイ・キャンプ地域への不法侵入罪で逮捕されたエルダーを含む 5 人のナバホ女性の陪審裁判です。
事件の当日(2001 年 7 月 11 日)、生命の木をサンダンス・グラウンドに運ぼうとする人々は、アンナ・メエ・キャンプの入り口で、ホピ部族警察に止められました。サンダンスのセレモニーがホピ部族政府の許可を得ていないという理由です。アンナ・メエ・キャンプのオーナー、ルイ−ズ・ベナーリはじめ縁者のものたちがホピ警察と話し合ったところ、部族議長ウェイン・テイラー・ジュニアと話し合い許可を出してもらうということで、ホピ部族政府の所在地、キコツモビに連れていかれました。ルイ−ズはジョアラ・アシキを万が一のことが起こった時のために同行してもらったといいます。エルダー、ルース・ベナ−リ(85歳)、同じくエルダー、ポーリン・ホワイトシンガー(80歳後半)、ルースの娘、エルビナ・ホースハ−ダーは自発的にルイーズたちの後に従いました。そうしてキコツモビに行きましたが、議長は留守で捕まりませんでした。それで議長のチーフスタッフ、ユージン・ケイと連絡をとり、彼の「儀式に許可は下りない。」という発言の元、5人のナバホ女性は逮捕されたのです。彼女たちはその夜をキ−ンズ・キャニオンの留置所で過ごしました。
「エルダーたちがオレンジ色の囚人服に身を包んで裁判所に立つ姿は、心が痛んでとても見ていられなかった。」
その日彼女たちの支援に奔走したカリフォルニアのサポーター、アグネス・パタックは、のちに涙まじりに語ってくれました。

翌日彼女たちは釈放され、アンナ・メイ・キャンプに元気な姿をあらわしました。
生命の木はその日の深夜サンダンス・グラウンドに運ばれ、セレモニーはそのまま続けられました。ホピ部族政府は、サンダンサーはじめセレモニーに参加した人全員に不法侵入罪を問い、1日につき罰金 500 ドルを科しました。そのため儀式の途中で去って行った者も少なくありません。(しかし実際サンダンサーの中で儀式が終わった後逮捕された者はいません。)道路封鎖地点などで逮捕され、実際ナバホカウンティー裁判所で裁判にかけられた者も 7、8 人いたようです。サンダンスの儀式の間、コミュニュティ−の唯一の水源であるロッキー・リッジの共同水道が BIA に閉鎖されるという嫌がらせもありました。

しかし儀式は 4 日間続けられました。3 日目、サンダンス・パイプをホピ警察と分かち合うというひとこまもありましたが、ホピ部族警察に拒否されました。
裁判は 2 月 27 日木曜日から、キ−ンズ・キャニオン、ホピ部族裁判所で始まりました。初日は陪審員選びです。ホピ族ばかりの約 90 人の陪審員候補のうち最終的に 6 人の陪審員が選ばれました。証人や被告の縁者でないこと、この事件について当時新聞を読むなどして関心を持ち、他人と議論したことのない者などの条件が科され、その後弁護側からサンダンスに関する個別的な質問が一人一人に行われました。
検察官ジェフ・テイガ−の主張は、アンナ・メイ・キャンプ(レンジユニット 262)はホピ部族政府の所有物であり、そこに部族政府の許可なしで立ち入った被告 5 人は不法侵入罪で有罪というものでした。印象に残っているのは、彼が主張の前に陪審員に、「この事件は『宗教の自由』の問題ではない。」とまずことわったことです。
弁護側はジョー・ワシントン(フラッグ・スタッフ)とロバート・マーロン(ワシントン DC)の二人。彼らの側の主張は、被告は HPL(ホピ分割地)の住人であり、ここに住む権利があり儀式をする権利があるというものです。
まずは検察側の証人喚問から。ホピ部族議長チーフ・スタッフをはじめ、当日取り締まったホピ部族警察官、ホピ・ランド・オフィスの係官、レンジャーなどで、当日の様子はじめ、アンナ・メイ・キャンプ地域がホピ部族の所有物であること、1998 年のサンダンスを最後にいっさいサンダンスを行わないことの合意があることなどの証言をしました。検察側の証人喚問は 2 日間にわたって行われ、裁判は翌週の月曜日に持ち越されました。
月曜の朝、陪審裁判 4 日目は、裁判長G・ラランスによる説明から始まりました。裁判長の結論は「審議却下」。
検察側の証人喚問が終わった後、弁護側から提議がありました。アンナ・メイ・キャンプがホピ部族政府の所有地で閉鎖された土地だというが、ここには柵も塀も肉体的に障害になるような物はいっさいないので、閉鎖された地域(Enclosedという概念)とはいえないというものです。この提議を裁判長は受け入れたのです。これは「法技術的な」問題だそうです。そしてまたこの問題は『宗教の自由』の問題であり、連邦裁判所で論議されるべきものであることも付け加えました。
そうして事件は審査却下。5人の女性がこの事件で不法侵入罪に問われることはなくなりました。
次のサンダンス裁判は、8 月 17 日、ホピ部族政府の命令によってアンナ・メエ・キャンプ・サンダンス・グラウンドが破壊された際、自宅におり現場の写真を撮っていたエリック・クリテンドン(18 歳、ルイ−ズ・ベナ−リの息子)が不法侵入罪で逮捕された事件の陪審裁判です。こちらは 3 月 21 日から週末を挟んで 3 日間にわたり行われました。前回の裁判のこともあり、今回も勝訴かと思ったのですが…結果は有罪でした。
検察側の主張は徹底して、当日警察官、パトカー、立て看板が立ち入り禁止地区を設定したのであり、そこにエリック・クリテンドンは再三の警告にもかかわらず立ち入ったのであるから「不法侵入罪」で有罪というものです。結局この論理がそのまま受け入れられたことになります。
残念なのは、今回の法廷ではホピ部族政府の聖なるサンダンス・グラウンド破壊の行為の是非がまったく問題にされなかったことです。

エリックの弁護団は 4 人。前回の 5 人のナバホ女性逮捕事件の際の弁護士、ジョー・ワシントンとロバート・マーロン、そして弁護団代表でもありジェフリー・プエルトコ(ウィンズロー)、ラリー・ローレンツ(バークレー)。検察官は前回と同じくジェフ・テイガ−です。
同じく前回と同じ裁判長 G・ラランスは極力議論がその方向に向くことを避けようとしているようでした。証人への質問がその方向に向くと、次々と質問は却下されていきました。
ホピ部祖族政府の命令の是非を問わずに、公平な裁判はありえるのでしょうか。少なくとも事件の背景にこのような真実があるのだということを陪審員は知るべきです。しかし事件の背景が法廷内で語られることはいっさいありませんでした。そのために証人台に立ったルイ−ズ・ベナ−リは自分の生まれ育った場所の説明をするやいなや証人台を降ろされました。もう一人アコモデーション・アグリーメントについての証人として用意されていた女性も証人として受け入れられませんでした。
裁判長は判決を出す直前の陪審員に、サンダンス・グラウンドを破壊する行為が違法かどうかを考えないで判決を出すように、念を押していました。 

結局エリック・クリテンドンは 1 日の収監と 100 ドルの罰金、及び 200 ドルの法廷費用を科されました。事件のあった当日 8 月 17 日は、彼の 18 歳の誕生日でした。若い青年にとっては生涯忘れられない日となるでしょう。
ルイ−ズ・ベナ−リによると、現在一連のサンダンス事件を「宗教の自由侵害事件」として連邦裁判所に訴える準備を現在進めています。
加えて、エリックの有罪判決の翌日(3 月 27 日)、やはりビッグマウンテンの住人、アコモデーション・アグリーメントのノン・サイナーであるトム・バドーニが自宅付近でスピード違反で逮捕されるという事件がありました。これは現在ホピ部族裁判所で裁判が続行中です。
一連のサンダンス事件の部族裁判所レベルでの裁判はこれでいちおう終わったことになります。トム・バドーニの事件もあるように、これからHPL住人に対するホピ部族政府の圧力は、あらゆる面でどんどん厳しくなっていくことが予想されます。

ノン・サイナーの多い、アンナ・メイ・キャンプのオーナー・ファミリーであるベナ−リ家は特に狙われていて、昨年の 10 月にはジョン・ベナ−リの馬が 6 頭没収されるという事件もありました。(幸い、カリフォルニアのサポーターたちのカンパでそのうち 4 頭を 600 ドルで競売で取り戻すことができました。)
またアコモデーション・アグリーメントにサインした家族の中にも家畜の没収に合うものが今年になってから続出していると聞きます。家畜の頭数制限は人々の生活を厳しいものにしています。家畜はここでの生活の糧です。羊だけではなく馬、牛、特に現代では牛はナバホにとっても重要な家畜です。家畜をHPLでは維持できないので、アコモデーション・アグリーメントにサインしたにもかかわらずこの土地を去ってゆく家族もいました。
今用意されている連邦裁判所への訴訟では、宗教的儀式の開催を許可制で許しているはずのアコモデーション・アグリーメントであるのに、実際には許可が下りない、また家畜の所有を保護しているはずが、実際にはたくさんの家畜が強制没収されている。また約束された家も5年後の今となってもほんの一部しか完成していない。などの事実を元にもう一度アコモデーション・アグリーメントの是非を問おうという企てがあります。
引き続き裁判の行方を見守っていくつもりでいます。みなさまの支援、サポートありがとうございます。これからもよろしくお願いしたします。


■カンパ宛先■
郵便預金 14110-91393801
WALK IN BEAUTY PROJECT
山口晴康
<お手数ですが住所、氏名をお知らせください>